2015年3月11日水曜日

今月の雑誌から 食道癌原発転移性脳腫瘍の3手術例

http://magakitm.blogspot.jp/より寄稿

食道癌原発転移性脳腫瘍の3手術例 藤井隆司ら 脳神経外科 43 (3): 221-225, 2015

自衛隊呉病院から県立広島病院に研修診療に来られている藤井先生による症例報告です。

転移性脳腫瘍の原発巣では肺癌、乳癌が比較的多く食道癌は比較的まれですが、この論文では 食道癌脳転移について代表症例1例の経過を提示、これを含めた3例がまとめられています。


考察から
  • 食道癌の脳転移の頻度は1.7%、2.1%などの報告がある。
  • 一般には肺転移からの二次性転移とされるが、食道癌原発お転移性脳腫瘍症例の15~30%程度しか肺転移が認められない。これは肺転移病巣が微小 なため画像的に描出できないか、あるいはBatson's plexusと呼ばれる静脈叢を介して椎骨動脈を経由し転移しているためと言われている。
  • 本邦では組織系では扁平上皮癌が多い。
  • 嚢胞形成を伴う転移性脳腫瘍は扁平上皮癌が多い。一方、腺癌では結節性病変が多い。
  • 嚢胞形成例ではOmmayaリザーバーを設置して嚢胞内容液を穿刺吸引し嚢胞を虚脱縮小させてから定位的放射線照射を行うことで治療成績が向上し得る。 

Batson静脈叢
硬膜外脊椎静脈。弁構造を持たずいわゆるvenous lakeのように静脈血を貯留しており腹腔や胸腔内圧の変化により血流の方向が容易に逆転する。肝や肺の静脈フィルターを介さず癌細胞が他部位に到達する経路となり得る。特に骨転移の経路として重要。


2015年3月4日水曜日

注目論文 発症6時間以内の内頸動脈、中大脳動脈閉塞に対して血管内治療は有効


http://magakitm.blogspot.jp/より寄稿

2015/02/25抄読会にて

発症6時間以内の内頸動脈、中大脳動脈閉塞に対して血管内治療は有効。


A Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Ischemic Stroke
N Engl J Med 2015; 372:11-20
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1411587#t=articleTop


急性期脳卒中に対する血管内治療の無作為試験
アブストラクト
【背景】
近位動脈閉塞により発症した急性期虚血性脳卒中患者に対して血管内治療は緊急血行再建において高い効果を有している。しかし機能的転帰における有効性の証拠は不足している。
【方法】
対 象となる患者を通常の治療に血管内治療追加の群または通常の治療のみの群に無作為に割り付けた。血管の画像診断で前方循環系での近位動脈閉塞が確認され発 症から6時間以内に血管内治療が施行可能なものを対象とした。一次エンドポイントは発症90日後のmodified Rankin scaleスコアとした(このスケールは機能的転帰を症状なしの0から死亡の6の間で数値化する)。治療効果を補正オッズ比として順序ロジスティック回帰 分析で評価し、事前に指定した予後因子で補正した。補正オッズ比は血管内治療が通常の治療と比較してmodified Rankin scoreを下げる尤度により評価した(シフト解析)。
【結果】
オランダの16のメディカルセンターで500例が登録された(血管内治療 群233例、通常治療のみ267例の割り付け)。平均年齢63歳(23-96歳)で、、445例(89.0%)で無作為化前にアルテプラーゼ静注が施行さ れていた。血管内治療群では233例中190例(81.5%)で血栓回収ステントが使用された。補正オッズ比は1.67(95%信頼区間[CI]、1.21-2.30) であった。機能的自立(modified Rankin score 0-2)の割合における絶対差は13.5%で血管内が有利であった(32.6%対19.1%)。死亡と症候性頭蓋内出血の頻度では有意差はなかった。
【結論】
前方循環の近位動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中患者において、発症6時間以内の血管内治療は有効でかつ安全であった。


実臨床といっていい条件で有効性を証明しています。
ポイントは
(1)血管内治療群、通常治療群の両者ともIV t-PAを施行(つまり血管内治療群も大部分はIV t-PA後に施行)。
(2)両群ともICからM1閉塞とM1閉塞で約9割を占める。
(3)使用したデバイスは8割以上が血栓回収ステント。
(4) 30日後死亡率は両群とも約18%、症候性頭蓋内出血は両群とも7%前後。
(5)再開通の評価ではTICI 2b+3が58.7%と他のトライアルと比較してやや低い。
(6)血管内治療群で対象血管以外の領域の脳梗塞出現が8.6%と比較的高い。

2014年7月12日土曜日

脳卒中友の会でリハビリロボットの話をさせて頂きました.


今日は広島脳卒中友の会「ぴあチアーズ」で歩行支援ロボットのお話しをさせて頂きました.
広島大学弓削先生の教室と共同で行っていますが良い形で発展させていてたらと思います.
友の会に参加しておられる皆さん,とても熱心です.


県立広島病院 脳神経外科 籬 拓郎

2014年2月17日月曜日

歩行支援ロボットのデモの記事が中国新聞に掲載されました.

2/12中国新聞に県病院での歩行支援ロボットの記事が掲載されました.
http://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=31090&comment_sub_id=0&category_id=112&localfrom=local&category_list=112&pl=1992662334
(通常のネットでの閲覧は記事の一部となります)

今後,脳卒中の急性期リハビリテーションで歩行支援ロボットを使用して機能訓練を始めていくにあたり,1/29に広島大学保健学科弓削教授はじめ教室の方,芝浦工大田中准教授,安川電機の担当の方と県病院(脳神経外科,リハビリテーション科)で顔合わせを行い,その後リハビリ室で実際に歩行支援ロボットを実地時装着して試行を行いました.
今後装置の調整を待って実際に臨床に生かしていきたいと思っています.



2013年12月26日木曜日

脳神経外科学会中四地方会で演題発表しました.

12/7徳島市で行われた脳神経外科学会中四地方会で演題発表しました.

演題は『顔面痙攣術後に生じた遅発性顔面神経麻痺の3例』でした.
片側顔面痙攣に対する微小血管減圧術(MVD)後に1~2週間で発症する末梢性顔面神経麻痺で経過はBell麻痺と同じで多くは元通りに回復します.原因についてはヘルペスウイルス関与などいわれていますがいまだ詳細は明らかではありません.フロアの先生方からのコメントからは少ないけれど稀でなく経験しておられる印象を受けました.その割には論文はあまりないようで予後が良好であることから見過ごされているのかもしれません.しかし一時期にせよほぼ完全麻痺まで至ることも少なくないので今後多施設で症例を蓄積していく必要があると思われます.

徳島は駅前なとても賑やかで良いところだなと思いました.しかし今回は慌ただしく往復したのであまり町を見ることができませんでした(広島からだと思ったより移動に時間がかかります).また訪れるときは名所など行ってみたいものです.

2013年11月28日木曜日

出張手術をしてきました。

2013年11月28日 溝上達也
以前一緒に仕事をしていた後輩から手術の依頼があり行ってきました。右内頚動脈閉塞の患者さんで、脳血流検査(SPECT)にて右大脳半球に広範囲脳虚血が確認され、放置すれば脳梗塞再発のリスクが高い状態でした。手術は頭皮を養っている浅側頭動脈を中大脳動脈(脳動脈)に吻合する浅側頭動脈ー中大脳動脈吻合術を施行しました。2箇所で血管吻合を行い、1箇所は後輩に施行してもらいました。このバイパス術により頭蓋外血管から脳血管へ不足分の血流が供給され今後の脳梗塞予防効果が得られたと判断されました。
脳梗塞予防は主に内科的治療(薬剤による治療)ですが、症例によっては内科的治療に加え上記のような外科的治療が効果的な症例もあります。当院では適応患者さまには充分に説明し承諾されたならば積極的外科的予防治療を行っています。

今回でこの病院での手術は二回目ですが、慣れた道具での手術は望ましく写真の手術器具を持参しました。それぞれの施設で特徴があり、当院でも取りたい器具の発見もありました。


学会シーズンの秋

秋は学会シーズンです。アップが遅れていたのでまとめて報告します。(溝上達也)
2013年9月7日 中国四国脳血管内治療研究会 (岡山)

「経動脈的コイル塞栓術を行った特発性直接型内頚動脈海綿静脈洞瘻の一例」を発表しました。専門外の人には題名たけではなんのことやら・・ですが!
頭蓋底部内頚動脈(海綿静脈洞部)に発生した動脈瘤が破裂すると「特発性直接型内頚動脈海綿静脈洞瘻」となり眼球突出、結膜充血が突然生じ、放置すると失明したり脳出血を生じることもあり早期の治療が必要となります。頭蓋底部の骨に囲まれた部位の病変であり、開頭による治療は非常に困難でありカテーテルを使用した血管内治療が有用です。今回経験した症例は3Dイメージを駆使して破裂部位を同定することで最小限のコイルで塞栓術が可能でした。(溝上)
2013年9月21日  広島脳血管内治療フォーラム(広島)
「CFD解析による未破裂脳動脈瘤における菲薄部の特徴ー脳動脈瘤コイル塞栓術での役割」脳動脈瘤は破裂するとくも膜下出血となり重篤な後遺症が残るリスクがある疾患です。破裂の予防治療として、未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術、クリッピング術があります。クリッピング術は開頭し直視下で動脈瘤の薄く破裂しそうな部位を確認しクリッピングが可能ですが、コイル塞栓術はX線透視下での治療であり、実際の菲薄部の確認はできません。そこで最近注目されているcomputational fluid dynamics(CFD)で解析を行い、その特徴を検討することでコイル塞栓術前でも菲薄部の予測はある程度可能である結果が得られました。(溝上)
2013年10月11日  PHOENICS  ユーザーカンファレンス(東京)
上記CFD解析は特殊な解析ソフトを用いで工学系で多く使用されています。今回我々が使用したソフトはCFD解析の老舗である”PHOENICS”です。POHENICSを開発販売しているCHAM社から我々の研究が注目され、工学系を含めた全国カンファレンスでのプレゼンテーションを依頼されました。医学でもCDF解析が注目されていることや今回解析した脳動脈瘤の治療や解析結果を報告しました。(溝上)
2013年10月18日 第77回日本脳神経外科学会総会(横浜)
毎年開催される脳神経外科で最大規模の学会です。今回は「新生児期発症水頭症に対する脳室腹腔シャント術後機能不全の検討」を報告しまいた。当院では広島県での周産期医療の中核を担っており新生児の脳疾患症例も他施設に比較して多く経験します。新生児期の水頭症(髄液の流れ、吸収障害により脳室に髄液が貯溜してしまう疾患)は小児期や成人例のそれと比較して難治例が多く、その特徴を理解し3次元画像での術前シミュレーションや内視鏡併用による治療などが必要となることを報告しました。(溝上)
2013年11月10日 広島医学会総会(広島)
年一回開催される広島県医師会主催の学会です。多岐にわたる分野から専門医の立場でプレゼンテーションが行われます。脳神経外科領域でもポスター及びビデオセッションがあり、「未破裂大型中大脳動脈瘤に対するクリッピング術」で手術ビデオを供覧しながらプレゼンテーションを行いまいした。脳動脈瘤の治療はカテーテル治療であるコイル塞栓術と開頭して行うコイル塞栓術がありますが、大きな動脈瘤はコイル塞栓術が困難である症例が多く、その場合開頭クリッピング術が必要となります。大きな動脈瘤は破裂率も高く放置する危険性も高くなりますが、クリッピングでの合併症率も高くなり、それ故術前の詳細なシミュレーション及び術中のモニタリングなどが重要であることを報告しました。(溝上)
2013年11月1日 Hiroshima Penumbra Seminar (広島)
脳梗塞で早期に再潅流すれば症状は劇的に改善することが多く、できるだけ早い入院加療が重要です。Penumbra(ペナンブラ)とは脳機能は停止しているが早期の再潅流治療で脳梗塞にならず機能も改善する領域のことです。これを商品名にしている血栓回収デバイス(カテーテルの一種)があり、このデバイスの使用経験と留意点を報告しました。(溝上)
2013年11月22日 第29回日本脳神経血管内治療学会学術総会(新潟)
血管内治療はカテーテルを使用した頭部を切らず血管の中から病変を治療するです。脳神経外科領域でも急速にこの分野は発展しつつあります。脳神経領域でもっとも多く参加のある脳神経血管内治療の全国学会ですが、今回「CFD解析による未破裂脳動脈瘤における菲薄部の特徴ー脳動脈瘤コイル塞栓術での役割」の内容(前記あり)で当院での先進的診断について発表しました。(溝上)

今年残りの学会は12/7中国四国脳神経外科学会、12/14広島脳血管内治療研究会と続きます。